2017年7月1日土曜日

トルストイの印度寓話03『遺産の分配』

トルストイ少年少女読本 [3] 子どもの智恵 米川正夫 訳 河出書房 1946 昭和21年

トルストイの印度寓話03『遺産の分配』
(トルストイのアーズブカ083『遺産分け』 )
 或る人に二人の息子がありました。この人は息子たちに向つて、『わたしが死んだら、なんでもみな半分わけにするがよい。』と言ひました。父親が死んでし まふと、息子たちは喧嘩せずに分配することが出来ませんでした。二人は隣りへ行つて裁きを頼みました。隣りの人は父親がどんな風に分けろと言つたのか尋ね ました。『お父さんは、なんでも半分わけにしろと言ひつけました。』といふのが答へでした。隣りの人は言ひました。『それでは何でもみんな半分に裂いて、 器物をみんなま半分に叩きこはし、家畜はみんな半分に切つてしまふがよい。』兄弟はその言葉に従ひました。そして二人の手もとには、なに一つ残らないこと になりました。

露国民衆文学全書 第三編 ろしあ童話集  昇曙夢(のぼりしょうむ) 大倉書店 1919 大正8年
ろしあ童話集トルストイ物語03『遺産の分配』

春陽堂少年文庫 トルストイ童話集 昇曙夢(のぼりしょうむ) 1932 昭和7年
トルストイ童話集物語篇03『遺産の分配』

The Complete Works of Count Tolstoy Volume XII.
Fables for Children 1869-1872
by Count Lev N. Tolstoy
Translated from the Original Russian and edited by Leo Wiener
Assistant Professor of Slavic Langauages at Harvard University
Boston Dana Estes & Company Publishers
II. ADAPTATIONS AND IMITATIONS OF HINDOO FABLES

3.THE PARTITION OF THE INHERITANCE
A Father had two Sons. He said to them: "When I die, divide everything into two equal parts."
When the Father died, the Sons could not divide without quarrelling. They went to a Neighbour to have him settle the matter. The Neighbour asked them how their Father had told them to divide. They said:
"He ordered us to divide everything into two equal parts."
The Neighbour said:
"If so, tear all your garments into two halves, break your dishes into two halves, and cut all your cattle into two halves!"
The Brothers obeyed their Neighbour, and lost everything.
https://archive.org/stream/completeworksofc12tols?ui=embed#page/20/mode/2up


仏典

昭和新纂 国訳大蔵経 経典部 第二巻 東方書院
百喩経3.17(58)『二子分財』
二子財を分つの喩
 昔摩羅国(まらこく)に一刹利(せつり)有り、病(やまひ)を得て極めて重し、必ず定(さだ)んで死するを知る。二子に戒勅(かいちよく)すらく、『我 死するの後善く財物(ざいもつ)を分けよ。』と。二子教へに随(したが)つて其(その)死後に於て分けて二分に作(な)す。兄言はく、『弟の分平(ぶんた ひら)ならず。』と。爾時(そのとき)一愚老人(いちぐらうにん)有り、言はく、『汝をして物を分(わか)つを教へ、平等を得しめん。現に所有(しよう) の物破(ものは)して二分と作す。云何(いかん)が之を破す。有(あら)ゆる衣裳(えしやう)中(ちう)より割つて二分と作し、槃瓶(はんびやう)も亦復 (また/\)中(なか)より破して二分と作(な)し、所有の瓮瓨(ぼんふ)も亦破して二分と作し、銭(せん)も亦破して二分と作す。是(かく)の如く一切 所有の財物(ざいもつ)尽(こと/゛\)く皆之を破して二分と作せ。』と。
 是(かく)の如く物を分(わか)たば人に嗤笑(しせふ)せられん。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1172018/158


世界文学大系 4 インド集 筑摩書房
カーター・サリット・サーガラ 愚者物語 岩本裕 訳
インド愚者物語32『遺産を等分した兄弟の話』


・類話

Type51*** TMI.K452.

Aesop's Fables. Illustrated by Ernest Griset. 
With Text Based Chiefly Upon Croxall, La Fontaine,
And L'Estrange. Casssel, Petter, Galpin & Co. London, Paris & New York.

Ernest Griset 355『訴訟する二匹の猫』
チーズを盗んだ二匹の猫が、その獲物を分配することで意見がまとまらなかった。そこで、この論争に決着をつけるために、彼らはその問題を猿に任せることに した。要請を受けた仲裁者は、すぐにその職務を引き受けた。そして、均等にするために、チーズ片を秤に乗せた。
「さて、調べてみましょう」猿が言った。「この塊はこっちよりも重いぞ」
  猿はそういうと、それを減らして均衡にするために、ガブリと食べた。すると反対側の秤が、今度は重くなってしまった。そこで、我らが良心的な裁判官 は、公正な理由から二口目をガブリとやった。
「やめろ、やめるんだ」二匹の猫は、この事態に驚いて言った。「我々にきちんと分けてくれれば、それで十分なのだ」
「もしあなたがたが満足でも」猿が言い返した。「こんなに複雑な事柄をそう簡単に決定するのは、裁判とは言えないのです」
  猿はそう言って、最初のほうを囓ると、また別な方を囓った。どんどんチーズが減ってゆくのを見て、哀れな猫たちは、猿にこれ以上面倒を引き起こさない でくれるように懇願した。そして残ったものを返すように言った。
「まあ、ちょっと間って下さい。私はあなた方にお願いがあるのです」猿が言った。「この裁判は、あなた方だけでなく、我々全体に係わるものなのです。です から残りは、職務の権利として私に支払われるのです」
  猿は全てを口に詰め込んだ。そして、厳かに裁判は閉廷された。

日本昔話通観28 昔話タイプ・インデックス 稲田浩二 同朋舎
昔話インデックス563『猿の仲裁』


ラ・フォンテーヌ 寓話 今野一雄 訳 岩波文庫
Laf09.09『牡蠣と訴訟人』

Ernest Griset 224『二人の旅人と牡蠣』
 二人の男が、波の寄せつける海辺を歩いていて、牡蠣を見つけた。そして彼らはそれを拾おうと同時に身をかがめた。一方が相手を押しのけた。こうして喧嘩 が起こった。するとそこへ、三人目の旅人がやって来た。そこで二人は、二人のうちのどちらが、牡蠣の所有者として相応しいかを彼に決めてもらうことにし た。彼らがそれぞれ、自分の主張をしている間に、仲裁者は、厳かにナイフを取り出し、牡蠣の殻を開いた。採決のために彼らの話を聞いていた裁定者は、彼ら の弁論が終わると、厳かにペロリと牡蠣を飲み込んだ。そして、貝殻を一枚ずつ二人に与えた。
「判決を言い渡します」裁定者が言った。「貝殻はそれぞれあなた方のものです。牡蠣は裁判の費用として私が受け取りました」



ト ルストイの印度寓話対照表
トルストイの アーズブカ対照表
トルストイの アリとハト対照表