トルストイ少年少女読本[3] 子供の智恵 米川正夫 訳 河出書房
1946 昭和21年 トルストイの印度寓話12『山犬と象』 山犬どもが森の中の死んだ獣をみんな食ひつくして、もうなにも喰べるものがなくなつてしまつた。そこで年取つた山犬が、うまく腹を膨らす方法を考へつき ました。まづ象のところへ行つて、かう申し込みました。 『わたし達に一人の王様がありましたが、我がまゝが増長して、とても出来ない事をしろと言ひつけるので、別の王様を選み出さうと考へてをります。仲間の 者はあなたに王様になつて戴くやうにお願ひしろと、わたしを使ひによこしました。わたし達の暮らしは楽なものです。なんでもお言ひつけになるものは、すべ てその通りに致しまして、万事あなたを大事に敬ひます。わたくし共の国へ参りませう。』 象は承知して、山犬の後からついて行きました。山犬は沼地へ象を引つぱつて行きました、象が泥の中へ足を吸ひ込まれたとき、山犬はかう言ふのでした。 『さあ、今こそ命令して下さい。なんでもお言ひつけどほりに致します。』 象は言ひました。 『それではわしを引き出すやうに命令する。』 山犬は笑ひながら言ひました。 『その鼻でわたしの尻尾にお掴まりなさい。すぐに引つぱり出しませう。』 象は言ひました。 『一体わしを尻尾で引つぱり出すことが出来るのか?』 すると山犬は言ひました。 『それではなぜ出来ないことを言ひつけるんです? わたし達が前の王様を追ひ出したのも、出来ないことを言ひつけたからですよ。』 象が沼地で息を引きとると、山犬どもがやつて来て、喰ひつくして了ひました。 露国民衆文学全書 第三編 ろしあ童話集 昇曙夢 大倉書店 1919 大正8年 ろしあ童話集トルストイ物語12『山狗と象』
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/958849/15
The Complete Works of Count Tolstoy Volume XII.春陽堂少年文庫 トルストイ童話集 昇曙夢(のぼりしょうむ) 1932 昭和7年 トルストイ童話集童話篇12『山狗と象』 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1168514/11 Fables for Children 1869-1872 by Count Lev N. Tolstoy Translated from the Original Russian and edited by Leo Wiener Assistant Professor of Slavic Langauages at Harvard University Boston Dana Estes & Company Publishers II. ADAPTATIONS AND IMITATIONS OF HINDOO FABLES 12.THE JACKALS AND THE ELEPHANT The Jackals had eaten up all the carrion in the woods, and had nothing to eat. So an old Jackal was thinking how to find something to feed on. He went to an Elephant, and said: "We had a king, but he became overweening: he told us to do things that nobody could do; we want to choose another king, and my people have sent me to ask you to be our king. You will have an easy life with us. Whatever you will order us to do, we will do, and we will honour you in everything. Come to our kingdom!" The Elephant consented, and followed the Jackal. The Jackal brought him to a swamp. When the Elephant stuck fast in it, the Jackal said: "Now command! Whatever you command, we will do." The Elephant said: "I command you to pull me out from here." The Jackal began to laugh, and said: "Take hold of my tail with your trunk, and I will pull you out at once." The Elephant said: "Can I be pulled out by a tail?" But the Jackal said to him: "Why, then, do you command us to do what is impossible? Did we not drive away our first king for telling us to do what could not be done?" When the Elephant died in the swamp the Jackals came and ate him up. https://archive.org/stream/completeworksofc12tols?ui=embed#page/22/mode/2up シャルマン物語 : 印度の教養 森畯二 訳 拓文堂 1942 昭和17年 (ヒトパデーサ) シャルマン物語1.7『大象と老犲』 「むかし梵林(ぽんりん)に白額(はくがく)といふ大象がゐましたが、犲(やまいぬ)がよりあつて 「なんとかしてあの白額めをまゐらしてしまへば、この先たつぷり四月(よつき)のあひだは、おたがひに心配なく腹が肥やせるのだ。どうしたものだら う。」 と、一同頭をかしげて考へました。 すると年をとつた犲が 「わしがひとつ智慧を絞つて彼奴を殺して見せよう。兎に角わしにまかすがよい。」 といつて、早速白額を探しあてゝ、地べたに頭をこすりつけて、 「どうかしばしが間、お目通りをお許し下さいませ。」 と恭しく述べますと、白額は面倒くさいといふ風に 「お前は誰だ、何用か」 ときゝましたので、 「私はつまらぬ犲でございますが、これまで永らく、この森の者どもが寄ると触ると、上(かみ)に王様を戴かなければ此世はまつたく常闇(とこやみ)だ と、口を揃へて申しますので、この度いよ/\寄り合つて談合をかさねた上、年甲斐に私が総代となつて、立派な徳をおそなへになられてゐるあなた様に、この 林をお治めくださるやう、お願ひにまかり出ました次第です。古の言葉にも、尊い宗祖(みおや)に出でさせられ、遺訓にもどづいて法典を布(し)かせたま ひ、下(しも)ざまの事にお通じ遊ばす御方こそ、栄(はえ)あるこの世の宰(つかさ)といつてございまする。又妻もめとれ産も保てるのは、王者の上(か み)にいました上のこと。さもなくば妻や産は全くの名ばかり、それに、王者は活き物をさゝへる雲と、恐れながら比(たく)らべることもございますが、雲が 雨を降らぜずとも、命を絶やすほどの恐れはございません。王者の恵みが世になければ、生活の道はいづこに求められませう。笞(しもと)の怖さに命を守るや うな乱れた世には、誰一人善事に心がけるものではございません。たゞ讎(あだ)のおそろしいばかりに、うまれのよい妻が執心深い者、いくぢのない者、悪い 病のある者、暮らしむきの立たぬ者を夫として従ふなら、夫婦(めをと)の道がどこにございませう。お願ひ致すのはこの事で、どうかこの星回りのよい時を幸 ひに、直ぐさまおいで遊ばして、一同をお治め下さいますやう、ひとへに願ひ上げます。」 と犲はうまく乗せかけました。 白象は計とはつゆ知らず、誘(いざな)はれるまゝについて行くと、間もなくひどい泥地へはまつて、身動きが出来なくなりましたので、さすがの大象も肝を ひやし 「待て。待て、どうすればよいのか。わしの体はだん/\減(め)りこむばかりだ。」 といふ言葉に、しめたと思つた犲は、こをどりしたい程の喜びを抑へて、 「どうか、私の尻尾の端をしつかと掴まへて、お出ましになりますやう。」 と、そら嘯(うそぶ)いて答へました。つまり善事に心掛けず、力となるまことの友にも遠ざかれば、悪漢に魅せられるといふのがこゝのことで、象は臨終にな つて始めてそれと眼がさめても、取りかへしがつかず、到頭犲等の餌食になつてしまひました。」 ヒトーパデーシャ―処世の教え ナーラーヤナ 著 金倉 圓照 北川 秀則 訳 岩波文庫 Hito1.5.1『象と狡猾な山犬』 ト ルストイの印度寓話対照表 トルストイの アーズブカ対照表 トルストイの アリとハト対照表 |