2017年7月12日水曜日

トルストイの印度寓話15『盲と牛乳』

トルストイ少年少女読本[3] 子供の智恵 米川正夫 訳 河出書房 1946 昭和21年

トルストイの印度寓話15『盲と牛乳』
 或る生れながらの盲が目あきに尋ねました。
 『牛乳はどんな色をしてゐるんだね?』
 目あきは言ひました。『牛乳は紙と同じやうに、真つ白な色をしてゐるよ。』
 盲は尋ねました。『それぢや、牛乳の色は紙と同じやうに、手でさはるとがさ/\言ふのかね?』
 目あきは言ひました。『いや、その白さは粉のやうな白さなんだ。』
 盲は尋ねました。『それでは何かね、粉のやうに柔らかくて、さら/\してゐるの?』
 目あきは言ひました。『いや、たゞ白いんだ。白兎のやうに。』
 盲は尋ねました。『それぢや、兎のやうにふつくらして柔らかいの?』
 目あきは言ひました。『いや、それはちやうど雪のやうに真つ白なんだ。』
 盲は尋ねました。『それぢや、その白さは雪のやうに冷たいの?』
 かうして、目あきがどれだけ譬へを引いても、盲は牛乳の白さがどんな色か、合点することが出来ませんでした。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1169127/15

露国民衆文学全書 第三編 ろしあ童話集  昇曙夢(のぼりしょうむ) 大倉書店 1919 大正8年
ろしあ童話集トルストイ物語15『盲人と牛乳』

春陽堂少年文庫 トルストイ童話集 昇曙夢1932 昭和7年
トルストイ童話集童話篇15『盲人と牛乳』
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1168514/13

The Complete Works of Count Tolstoy Volume XII.
Fables for Children 1869-1872
by Count Lev N. Tolstoy
Translated from the Original Russian and edited by Leo Wiener
Assistant Professor of Slavic Langauages at Harvard University
Boston Dana Estes & Company Publishers
II. ADAPTATIONS AND IMITATIONS OF HINDOO FABLES

15.THE BLIND MAN AND THE MILK
A Man born blind asked a Seeing Man:
"Of what colour is milk?"
The Seeing Man said: "The colour of milk is the same as that of white paper."
The Blind Man asked: "Well, does that colour rustle in your hands like paper?"
The Seeing Man said: "No, it is as white as white flour."
The Blind Man asked: "Well, is it as soft and as powdery as flour?"
The Seeing Man said: "No, it is simply as white as a white hare."
The Blind Man asked: "Well, is it as fluffy and soft as a hare?"
The Seeing Man said: "No, it is as white as snow."
The Blind Man asked: "Well, is it as cold as snow?"
And no matter how many examples the Seeing Man gave, the Blind Man was unable to understand what the white colour of milk was like.
https://archive.org/stream/completeworksofc12tols?ui=embed#page/24/mode/2up


仏典

昭和新纂 国訳大蔵経  経典部 第5巻 東方書院
大般涅槃經卷第十三 聖行品第第十九之下
 生盲(しやうまう)の人乳色(にうしき)を識(し)らず。便(すなは)ち他に問ひて言はく、「乳色何(にうしきなん)にか似る。」他人答へて言はく、 「色白くして貝(ばい)の如し」と。盲人復(もうにんまた)問ふ、「是の乳色は貝声(ばいしやう)の如くなりや。」答へて言はく、「不(いな)なり。」復 問ふ「貝色何に似ると為すや。」答へて云はく、「稲米末(たうまいまつ)の如し。」盲人復問ふ、「乳色柔耎(にうしきにうなん)にして稲米末(たうまいま つ)の如くなりや。稲米末は復何の似る所ぞ。」答へて言はく、「雪の如し。」盲人復言はく、「彼の稲米末冷(ひややか)なる雪の如くなりや。雪復何に似 る。」答へて言はく、「猶(なほ)し白鶴(びやくかく)の如し。」是の生盲の人、是(かく)の如き四種(ししゆ)の譬喩(ひゆ)を聞くと雖も、終(つひ) に乳の真色(しんじき)を識(し)ることを得(う)ること能はず。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1172051/176

教育叢書 通俗修身談 小池清 著 共同出版社 明24
盲目と目の見へる人との話
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/757783/31

ボビーさん新お伽噺 藤波山人 著 春江堂書店 1913 大正2
2.馬鹿正直
 或る人が、文盲なる少年に向つて、『何でも人は堪忍の二字を守らなければいけませんよ』と説き聴かせました、文盲なる男は首を傾(かし)けながら指を折 て、『かんにんならば四字でしよう、二字と云ふは 御心得たがひでしよう』と云ふので『イヤ、堪忍とは、たへしのぶと 云う義で二字がほんとうじや』と云いました、文盲はまた首を傾(かたむ)けて、『たいしのぶ、ならば、五字で、一字多くなりましたな』、『没 道漢(わからずや)だな、堪忍とはたへしのぶと云 ふ義で二字だよ』、『かんにんならば四字でしよ』 と何度教いても暁(さと)りませんので、その人は大(おほい)に怒つて『御前のやうな、愚物は又と無い、馬鹿に塗(つけ)る薬は無いと云ふが如何にもほん とうである』と罵ると、文盲は平気なので『何と仰しやつても私(わたくし)はかんにんの四字を守るから腹は立ちません』と笑つて居ました 無学でも、堪忍して怒らぬ所は立派なものであります



Aesop's Fables. Illustrated by Ernest Griset. 
With Text Based Chiefly Upon Croxall, La Fontaine,
And L'Estrange. Casssel, Petter, Galpin & Co. London, Paris & New York.

Ernest Griset 293『カメレオン』
  二人の旅人が道すがら、カメレオンの色について口論となった。一方は青色だと言い張った。とても晴れた日に、カメレオンが枯れ枝にとまって、空を見上げて いるのを、この目で見たのだと言うのだった。もう一方は、緑色だと断言した。イチジクの大きな葉にいるのをすぐ近くで、よく観察したのだと言うのだった。 両者ともに確信していたので、口論はいよいよ激しくなった。すると、よいことに、もう一人の旅人がやって来た。二人はこの問題を彼に託すことにした。
「お二人方よ」仲裁者が満面の笑みを浮かべて言った。「この裁定者に私ほど適任者はおりません。実を言いますと、昨夜カメレオンをこの手で捕まえたので す。しかし、これは真実ですが、あなた方は二人とも間違っています。と言いますのも、カメレオンは身体全体真っ黒だからです」
「真っ黒だって! そんなはずはない」
「いや、その通りなのです」裁定者は自信満々に答えた。「すぐにでも証明してみせますよ。と言うのも、私はそいつを、紙の箱にすぐに押し込んだからです。 ほらこれがそうです」
  彼はそう言うと、箱をポケットから取り出して開いた。おお! それは雪のように白かった。自分の言うことに確信を持っていた者たちは、皆驚きの表情を 浮かべ、困惑したようだった。一方この賢い爬虫類は、哲学者然として、彼らを諭した。
「未熟な者たちよ、中庸ということを学びなさい。今回の事例では、皆が正しかったのです。それぞれ違った環境において、対象を見たために違って見えただけ なのです。今後は、自分だけでなく、他の人もちゃんとした洞察を持っていることを肝に銘じるのです。そして、誰もが、他人の感覚よりも自分自身の感覚を正 しいと思いこむということを肝に銘じなさい」

Bewick 3.10

ト ルストイの印度寓話対照表
トルストイの アーズブカ対照表
トルストイの アリとハト対照表